量刑の考え方と決め方
1 量刑とは
刑の重さを決めることを量刑と呼んでいます。
刑の重さについては刑法等で定められており、有罪であるときにはその範囲内で刑の重さが決められることになります。
例えば、窃盗罪では「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と定められています。
このように刑の幅は広く定められていることが通常です。
その範囲内でどのくらいの重さの刑にするかは裁判官の判断に任されています。
2 量刑の基本的考え方
刑罰の目的は応報(犯罪行為に対する責任を問うこと)と予防(犯罪を防止すること)にあると言われています。
実務では応報的な根拠が重視されていると思われます。
応報的発想でないと、被告人をも含めた関係者の納得を得られにくいし、裁判官自身も刑を決めにくいというところに理由があるのではないでしょうか。
したがって、後に述べる通り、刑の重さを決める際には被告人が何をしたかが基本に据えられるといえるでしょう。
3 想定される量刑事情
裁判官が量刑を決定するにあたって、想定される量刑事情としては以下のようなものが考えられるのでしょう。
(1) 被告人が何をしたのか
刑の重さが決められる際には、被告人が「何をしたか」ということがまずもって重要です。
先に述べた通り、刑罰を科すことの本質は犯罪行為に対する責任を問うことにあるから、基本的には被告人が何をしたかで刑の重さが決められるべきと考えられるからです。
何をしたかというのは、①被害の大きさ、②犯行態様、③動機の悪質性に分けることができます。
①被害が大きいほど量刑も重くなる方向に働きます。
例えば、窃盗罪では、被害金額が大きくなればなるほど刑が重くなる方向に働きますし、傷害罪では怪我の程度が重いほど刑が重くなる方向に働きます。
②犯行態様が悪質であると考えられるほど量刑も重くなる方向に働きます。
例えば、傷害罪でいうと、どのような危険性のある暴行であったか(例えば、突き飛ばしたのか、バットで殴ったのか等)、執拗な暴行であったか等が考慮されます。
③動機が悪質であると考えられるほど量刑も重くなる方向に働きます。
例えば、窃盗罪でいうと、空腹を満たすための食料を盗んだときと、転売し換金する目的で盗みを行ったときとでは、転売目的での盗みの方が動機が悪質であると判断されるでしょう。
共犯者と一緒になり犯罪を行っている場合でも、その人が何をしたかで量刑が変わってきます。
共犯者の中で誰か計画を立てたのか、現場で誰がどのような言動をしたのか、犯行により得た収益から誰が多くを受け取ったのか等により共犯者でも刑の重さが異なってくることになります。
(2) 前科の有無
前科は、刑の重さを決めるに当たって「何をしたのか」に次いで考慮されているという印象を受けます。
比較的軽微な犯行(例えば被害額が数百円の万引き)であっても、それが繰り返されると、罰金(略式起訴)→執行猶予付判決→実刑というように徐々に重くなっていくものです。
何をしたかでいうと比較的軽微でも、前科が多数あると刑務所に行くこともあるのです。
(3) 示談の有無
示談とは一般に裁判手続外で当事者が支払額等について合意をすることをいいます。裁判手続外で示談をして損害賠償金を支払い、そのことを刑事裁判で考慮してもらうという関係にあります。被告人の努力や誠意の現れと評価できることもあります。
特に、窃盗、詐欺のような財産犯の場合には示談をしたことは刑の重さに対し相当な影響を与えるものと考えられます。
(4) 自白の有無
一定の割合の被疑者は、警察官による取調中に、取調室で自白をしたら刑がかなり軽くなると思ってしまうようです。しかしながら、それは端的に間違いでしょう。黙秘権は権利であって、権利を行使したことをもってその人を不利益に扱うことはできないからです。
(5) 被害者の落ち度
被害者の落ち度とは、例えば、加害者を執拗に挑発してその結果暴力を振るわれてしまっていたような場合です。
事件の報道の際に被害者に落ち度があったとの見解をメディア等で聞くことがありますが、刑事裁判の場では被害者の落ち度が認められる事由は限られるといってよいと思います。
例えば鍵をかけ忘れてしまったために泥棒に入られた場合や、強姦被害者が加害者を自宅に入れること自体には同意をしていた場合などでは被害者に落ち度があったとはいえません。
ただ、鍵をかけ忘れて泥棒に入られた人の例でいうと、施錠してある鍵をピッキングするなどして侵入した場合と比較すると侵入態様の悪質性が異なるとはいえるので、犯行態様の悪質性の違いという点で情状に影響があるとはいえるでしょう。
(6) 余罪
起訴されていない犯罪事実をいわゆる余罪として認定し、処罰する趣旨で量刑の資料とすることは許されないと考えられています。これをしてしまうと、様々な刑事裁判の原則に反することになってしまうからです。
ただし、被告人の性格、経歴等を推し量るための資料として使用することはできると考えられています。
(7) 反省していること
反省は更正可能性を推測させる事情の一つであると位置付けられるのでしょう。
反省は内心のことであるからよく分からないと思われてしまうので、反省していることを推測させる客観的事情と併せて主張すべきなのでしょう。
4 量刑を決めるプロセス
量刑を決定するプロセスは裁判官の内心のことであるから本当のところはわからないともいえそうですが、犯行態様、被害額等が同様である過去の裁判例を参考にしておおよその枠・位置付けを決めた後に、前科、示談等を考慮して最終的に言い渡す刑を決めているものと推測できます。