刑事補償~無罪の先には
少し前、嵐の松本潤さんが主演した「99.9」というドラマが人気になりました。このドラマのタイトルは、日本の刑事裁判における有罪率が99.9%を超えることが基になっています。そのような厳しい状況でも松本さん演じる刑事弁護士が諦めずに闘う姿が好評を博していたようです。
実際の刑事裁判では、その殆どが自白事件(本人が事実を認めている事件)ですので、否認事件(主に本人が事実を認めていない事件で、誤解を恐れずに言うと本人が「やってない!」と主張している事件)だけに限定すると99.9%を若干下回るようですが、それでも日本の刑事裁判において無罪になるということは相当レアケースであることは間違いありません。
では、実際に無罪判決を受けると、その先には何かあるのでしょうか。
刑事裁判を受けるということは、そのこと自体で心身ともに疲弊してしまいます。とりわけ逮捕・勾留されて身柄が拘束されていれば、その分通常の社会生活を送れず、場合によっては仕事を失ってしまうかもしれません。
そこで、法律では、抑留又は拘禁された者が無罪の裁判を受けたときは、身柄拘束されたことに関しての補償を求めることができると定められています。注意が必要なのは、あくまでも逮捕や勾留をされて身柄拘束された期間がある場合に限って請求できるもので、例えば在宅で捜査されたために逮捕や勾留をされなかった場合には、たとえ無罪判決を得ても請求することはできません。
補償金額は、一日あたり「1、000円以上12、500円以下」の範囲内とされています(刑事補償法4条1項)。そして、裁判所が「拘束の種類及びその期間の長短、本人が受けた財産上の損失、得るはずであつた利益の喪失、精神上の苦痛及び身体上の損傷並びに警察、検察及び裁判の各機関の故意過失の有無その他一切の事情」を考慮して最終的な金額を決めます(同2項)。
一般の裁判例と異なり、開示されている情報もそれほど多くないので、法律の金額の範囲内で実際にどの程度認められるかは不透明ですが、たとえば私が担当したケースでは、ご本人の性別や年齢等をも考慮して賃金センサス等を参考にして請求しました。
刑事裁判を受けたことによる諸々の苦痛が金銭による補償だけで癒されるものではありませんが、無罪判決を受けた後、再スタートをきるための一助として必要な制度といえます。
(弁護士 阿部大介)