通勤手当の不正受給
会社が通勤手当を支払うことは法律上の義務ではありませんが、多くの会社では支給基準が定められることにより通勤手当が賃金として支給されます。
本来は通勤手当を受給できないのに受給したり、本来受給できる金額よりも多く受給することはできません。
通勤手当を不正に受給していたといえる場合には、実際に受給していた金額と本来受給できる金額の差額分は会社に返還すべきことになります。
当該行為が就業規則等において定められた懲戒事由に該当するのであれば懲戒処分がなされる可能性が生じます。
懲戒処分の重さは、不正受給の方法、不正受給により得た金額、期間等を考慮して判断されると考えられます。
懲戒事由に該当し得る不正受給の類型としては、①会社に申告した通勤経路より交通費の安く済む通勤経路を利用してその差額を取得していた、②引っ越しにより住所が変わったことを申告していなかったことにより過大な通勤手当を受給した、③当初から虚偽の住所を申告することにより過大な通勤手当を受給していた、があるでしょう。
基本的には①②③の順に方法の悪質性が高いといえそうで、私見ですが、③の場合には、金額、期間にもよりますが、特段の事情がない限り解雇を争うことはなかなか難しいことが多いのではないかと予想されます。
【参考裁判例】
⓵の事案
通勤経路を変更してより安価な運賃で通勤するようになったことを会社に届け出ず通勤手当を不正受給したという事案で、就業規則所定の懲戒事由に該当するものの、不正受給の動機、額(合計34万円あまり)等の事情に照らせば懲戒解雇は重きにすぎるとして懲戒解雇は無効とされた。
(東京地判平成18年2月7日)
⓵の事案
通勤状況届において申告した経路とは異なる定期券を購入して通勤し、不正に差額分の通勤手当を受給して諭旨退職処分を受けたという事案で、通勤状況届上の通勤経路と異なる経路で通勤するという前記労働者の不正受給行為は、就業規則上の懲戒事由に該当するが、職員としての身分を剥奪する程に重大な懲戒処分をもって臨むことは、被告における企業秩序維持の制裁として重きに過ぎるとして、当該諭旨退職処分は無効であるとした。
(東京地判平成25年1月25日)
③の事案
勤務時間の大半は自席を離れて業務遂行を放棄し、かつ、虚偽の住所を会社に届け出て約4年間にわたり実費を約231万円上回る通勤手当を受け取っていたという事案で、労働者に対する懲戒解雇が有効とされた。
(東京地判平成11年11月30日)