刑事事件における損害賠償命令制度
一般に、損害賠償請求をしようとする場合、民事訴訟を提起するということが考えられますが、加害者側が刑事事件になっている一定の場合には、損害賠償命令という制度を利用できるということをご存知でしょうか。
この制度は、刑事事件として起訴されている場合に、弁論の終結までに損害賠償命令の申立てをすることにより、刑事事件の終了後、担当裁判官が、引き続き審理をして、被告人に損害賠償を命じることができるという制度です。
損害賠償命令制度は、従来の民事の訴訟手続きに比べ、以下のようなメリットがあると言われています。
1 審理が簡易迅速である
通常の民事訴訟の場合には、請求をする原告側で、証拠を収集して提出する必要がありますが、この制度では、刑事訴訟記録が証拠として引き継がれ利用できるという点で、大きなメリットがあります。
また、通常の民事訴訟では、比較的簡易なケースでも終了までに半年や1年程度時間がかかることも多いですが、この制度は、原則として、4回以内で審理をすることが想定されていますので、手続が迅速に進むというのも、大きなメリットです。
そして、裁判官が損害賠償を命ずる決定を出して、異議が出されない場合には、通常の民事訴訟の確定判決と同一の効力を持ち、これに基づいて強制執行をすることも可能になります。
2 申立手数料が安い
損害賠償命令を申立てる場合の申立手数料は、請求額に関わらず、一訴因あたり2000円とされています。
これは、通常の民事訴訟では、請求額に応じて印紙代も高くなっており、たとえば、100万円の損害賠償請求をする場合には、1万円の印紙代が必要になることからしても、利用者に負担の少ない制度になっています。
なお、この制度が利用できるのは、殺人、傷害、傷害致死、強盗致死傷、強制わいせつ、強姦などの一定の犯罪に限られており、また、異議が申し立てられた場合には、通常の民事訴訟に移行することになります。
このように、損害賠償命令制度は、限定的ではありますが、民事訴訟に比べると、利用しやすい制度になっているため、刑事事件の被害者になっているという場合には、ご利用を検討されてみてはいかがでしょうか。
当事務所では、損害賠償命令申立てを弁護士に依頼するにあたり、資力が十分でない方は、法テラスをご利用いただくことも可能です。
(弁護士 中村恵)