離婚において別居の持つ意味
離婚という場面で「別居」には重要な意味があります。ここでいう「別居」とは、夫婦としての共同生活がなくなることで、たとえば夫が単身赴任した場合や家庭内別居などは「別居」には当たりません。
1 離婚原因の一つの要素になる。
「不貞」などと並んで、婚姻関係が破たんしていることというのは、離婚原因の一つです。
たとえば、暴力行為があり夫婦として暮らしていくのは無理な場合などは、婚姻関係が破たんしていると評価されます。ただ、特に暴力などの事情もない場合などは破たんが認められにくいので、「別居の期間」というのが一つの重要要素になります。
「『破たん』といえるためには何年必要なのですか?」とよく聞かれますが、それはケースバイケースとしか言いようがありません。
たとえば、同じ別居期間であっても、結婚後すぐに別居した場合と、結婚後30年経った後に別居した場合とでは、評価が違います。
また、別居した経緯、別居期間中の往来の在り方、生活費の払い方など、様々な考慮要素もありますから、どうしてもケースバイケースとなってしまうのです。
「〇年」別居していれば破たんが認められるといった単純な話ではありませんので、相手から「〇年で離婚できる」などと言われても鵜呑みにはしないでくださいね。
2 財産を分ける基準時になる。
別居をしたときというのは、「財産分与の基準時」ともなります。
財産分与というのは、結婚している間に夫婦で協力して築き上げた財産は、離婚するときにはちゃんと分けましょうという制度です。
「別居」というのは夫婦としての共同生活がなくなることなので、通常は、別居した後は夫婦が協力して財産を築いているとはいいにくく、別居後に稼いだお金や築いた財産は、それぞれの単独所有ということになります。
つまり、財産を分ける基準時は、離婚のときではなく、別居のときで計算するのが通常ですので、ここでも「別居」は重要な意味を持ちます。
3 婚姻費用の計算が分かりやすい。
別居をしたとしても、離婚をしない限りは法律上は夫婦であって、お互いに扶養義務(お互いに助け合って養う義務)があります。
収入の低い方は収入の高い配偶者に婚姻費用(生活費)を請求することが可能です。
ここで、同居をしていると家賃や光熱費が別々にかかっているわけではありませんから、平成15年に裁判所が作成・発表した簡易算定表をそのまま使用することができません。こちらは、あくまで「別居していること」を想定して表となっています。
ちなみに、過去の婚姻費用に対する請求は、実務ではほとんど認められていません。
婚姻費用は「権利者が請求したとき」から実際に計算されることがほとんどですので、権利者は、別居した後、十分に生活費をもらえていないのであれば、できるだけ早く婚姻費用を請求するべきといえます。
(弁護士 押見和彦)