犬猫の殺処分と動物愛護法の関係
1 データから見る殺処分の現状
環境省のホームページによれば、2017年度の犬猫の引取数は10万648頭(犬3万8511頭、猫6万2137頭)、殺処分数は4万3216頭(犬8362頭、猫3万4854頭)です。
同ホームページによれば、1999年度の犬猫の引取数は58万8千頭(犬31万2千頭、猫27万6千頭)、殺処分数は56万2千頭(犬28万7千頭、猫27万5千頭)でした。
この20年間で犬猫の殺処分数が大幅に減少したこと、特に犬の殺処分数の減り方が大きいこと、行政が引き取った犬及び猫の中で殺処分される割合が下がってきていること等が注目されます。
2 終生飼養義務と引き取り拒否
(1) 引き取りと殺処分の関係
殺処分の問題は都道府県等が犬猫を引き取ったときに生じます(動物愛護法35条)。
都道府県等が犬又は猫を引き取り、その後、所有者又は新たな飼養者が見つからなければ、その犬又は猫は殺処分される可能性があるのです。
(2) 飼い主の終生飼養義務と引き取り拒否
動物の所有者は、その所有する動物の飼養又は保管の目的等を達成する上で支障を及ばさない範囲で、できる限り、当該動物がその命を終えるまで適切に飼養することに努めなければならないとされています(動物愛護法7条4項)。
飼い主は、ペットを飼うときには寿命で死ぬまで責任を持って面倒を見なければならないということです。
都道府県等は、飼い主の終生飼養義務の趣旨に反する引取要請については、引き取りを拒否することができます(動物愛護法35条1項)。
(3) 犬猫等販売業者の終生飼養義務と引き取り拒否
犬猫等販売業者は、やむを得ない場合を除き、販売の用に供することが困難となった犬猫等についても、引き続き、当該犬猫等の終生飼養の確保を図らなければならないとされています(動物愛護法22条の4)。
犬猫等販売業者に対しては、一般の飼い主よりも終生飼養義務の程度を強めているといえます。
都道府県等は引き取りを求められた場合には、引き取りを拒否できます(動物愛護法35条1項)。
3 事前の防止策
(1) 幼齢の犬又は猫の販売の制限
出生後56日を経過しない犬又は猫の販売は一部の例外を除き制限されます(動物愛護法22条の5、2019年改正)。
親から引き離す時期が早すぎると、成長後に噛む、吠えるなどの問題行動を引き起こす可能性が高くなってしまうそうです。飼い主と良好な関係を作ることが難しいと、虐待・遺棄・引取要請につながりやすくなってしまいます。
(2) 繁殖制限
犬又は猫の所有者は、これらの動物がみだりに繁殖してこれに適正な飼養を受ける機会を与えることが困難となるようなおそれがあると認める場合には、その繁殖を防止するため、生殖を不能にする手術その他の措置を講じなければならないとされています(動物愛護法37条、2019年改正によって義務化)。
適正な飼育が困難になる程の繁殖があれば、虐待・遺棄・引取要請につながるおそれがあるからです。
(3) 所有者不明とならないための措置
動物の所有者又は占有者は、動物の逃走を防止するための措置を講ずる必要があります(動物愛護法7条3項)。
また、動物の所有者は、自分が所有する動物であることを明らかにする措置(ex.連絡先等を記載した首輪や名札)を講ずる必要があります(動物愛護法7条6項)。
さらに、2019年改正により、犬猫等販売業者は犬又は猫にマイクロチップを装着しなければならず、飼い主は所有者登録をすることになりました(動物愛護法39条の2以下)。
これらの措置がとられることにより、逃げたり迷子になった犬猫が所有者不明で行政に引き取られ殺処分に至るという流れが遮断されることが期待されます。
4 罰則
2019年改正により、愛護動物の遺棄に対する罪の法定刑が「100万円以下の罰金」から「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」へと引き上げられました(動物愛護法44条3項)。
都道府県等が犬猫を引き取ってくれないからといって遺棄することは絶対に許されないということです。
また、同改正により、愛護動物の殺傷に対する罪の法定刑は5年以下の懲役または500万円以下の罰金となり、虐待に対する罪の法定刑は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となっています。
5 所有者への返還と飼養者の募集
都道府県知事等は、引き取りを行った犬又は猫について、殺処分がなくなることを目指して、所有者がいると推測されるものについてはその所有者を発見し、当該所有者に返還するよう努めるとともに、所有者がいないと推測されるもの、所有者から引き取りを求められたもの又は所有者の発見ができないものについてはその飼養を希望する者を募集し、当該希望する者に譲り渡すよう努めるものとするとされています(動物愛護法35条4項)。
都道府県知事は、動物の愛護を目的とする団体その他の者に犬及び猫の引き取り又は譲り渡しを委託することもできます(動物愛護法35条6項)。
所有者不明で引き取られた犬猫の所有者を探すためには、2019年改正によるマイクロチップ装着が役立つものと期待されます。
また、殺処分を減らすためには、いわゆる保護犬を引き取る選択肢が社会に広がることが役に立つと思われるところです。
ただ、保護施設の方に聴いたところでは、子犬は譲渡先が見つかりやすいが、成犬はなかなか難しいとのことでもありました。
6 殺処分の方法
動物を殺さなければならない場合には、できる限りその動物に苦痛を与えない方法によってしなければならないとされています(動物愛護法40条1項)。
犬猫の殺処分の方法として、多くの自治体では炭酸ガスが使われているようですが、その方法の妥当性については議論があるようです。
2019年改正により、環境大臣は、動物を殺す場合の方法について、必要な事項を定めるに当たっては、国際的動向に十分配慮するよう努めなければならないとされました。
(弁護士 山崎)