セクハラ加害者に対する懲戒処分
はじめに
セクハラがあったときは、通常は、会社は加害者に対して懲戒処分等をすることになります。
適切な処分がなされないならば、会社はセクハラを黙認または軽視したと受け取られてしまうのではないでしょうか。
加害者からの反撃の可能性
セクハラ加害者に対して懲戒処分をしたとき、セクハラ加害者からその効力を争われることがあります。
懲戒処分をするためには、①懲戒処分の根拠規定の存在、②懲戒事由への該当性、③処分の相当性、④手続きの相当性が必要ですが(労働契約法15条)、裁判所で、セクハラ行為があったとは認定できないとされてしまったり(②の問題)、懲戒処分の重さが相当でなかったとされたときは(③の問題)、懲戒処分は無効となってしまいます。
そのこともあり、懲戒処分をするに際しては十分な調査・検討が必要となります。
事実認定
セクハラの有無の調査に際しては、まずは相談者から事実関係をよく聞き取り、関係資料・証言を集め、行為者からもよく言い分を聴き取ることになります。
調査方法に関しては、プライバシーの問題もあるので、相談者の意向も尊重すべきでしょう。
セクハラ申告者と行為者の言い分が食い違うときには、両者の証言の信用性について慎重に検討されるべきです。
証言の信用性は、客観的証拠や第三者証言との合致の程度、証言の矛盾、変遷の有無等から判断されます。
直接的な客観的証拠や目撃証言がなければセクハラ行為が認定できないというわけではありません。
(裁判例①)
処分の相当性
セクハラがあったことが事実であれば、次は、いかなる処分がふさわしいかを決めることになります。
懲戒処分の種類・程度は、セクハラの行為態様等から導かれることになります。
例えば、同意なく胸を触る等の強制わいせつ的行為については、特段の事情がない限り、厳しい処分(懲戒解雇又は普通解雇)がふさわしいのではないかと思います。
(裁判例②、③、④)
裁判例⑤は、強制わいせつ的とはいえない身体的接触(手を握る、肩を抱く)とセクハラ発言があったというものですが、その場の状況等も挙げ、懲戒解雇は厳しすぎるとして無効としたものです。
言葉によるセクハラについては、卑猥・侮辱的発言をした労働者に対してされた出勤停止の懲戒処分を有効とした下記⑥の最高裁判決が参考になります。
⑥は、出勤停止の懲戒処分を無効とした高裁判決をひっくり返したものであり、セクハラ発言に厳しい最高裁の態度がうかがわれるといえるでしょう。
【裁判例】
①
教授の女性准教授に対する飲食店内でのセクハラ行為(太ももに手をおく)等の有無が争いになった事案において、直接の証拠や第三者の証人はなかったが、同准教授の証言は信用できるとして、減給2か月の懲戒処分を有効とした。
(大阪高判平成24年2月28日)
②
派遣先企業の女性従業員に対して強制わいせつ的行為(肩を揉んでブラジャーに手をかけるような行為、電気が消えて暗くなったことに乗じて抱きついた行為等)を繰り返した男性労働者について、風紀秩序を紊乱し、ひいて会社の名誉・信用を著しく傷付けたことを理由とする懲戒解雇が有効と認められた。
(東京地判平成10年12月7日)
③
観光バス会社の運転手に対してなされた、同社のトラベルコンパニオン及び取引先会社の添乗員に対するわいせつ行為(脚部を触ったり胸を触るなどの行為)等を理由とする懲戒解雇が適法とされた。
(大阪地判平成12年4月28日)
④
複数の女性部下に対し反復継続してなされたセクシャル・ハラスメント(意に反したキス、胸を触る行為等)を理由として、会社が同社金融営業本部長に対して行った懲戒解雇につき、同人がセクシャル・ハラスメントを行った事実が認められ、素行不良による秩序紊乱などの懲戒解雇事由に該当するとされた。
(東京地判平成17年1月31日)
⑤
会社の取締役であり支店長であった者のセクハラ行為(慰安旅行の宴会において、女性社員数名に対して、自分の隣に座らせ、身体についての不適切な発言、侮辱的な発言、手を握る、肩を抱くなどを繰り返したこと、日常的にも同様の発言・行為を行っていたこと)を理由としてなされた懲戒解雇処分について、気のゆるみがちな宴会で調子に乗ってされた言動としてとらえることもできる面もあること、多数の従業員の目もあるところで開けっぴろげに行われたこと、反省の情も示していることなどを考慮すると、労働者にとって極刑である懲戒解雇を直ちに選択するというのは重きに失するとして、懲戒解雇処分が無効と判断された。
(東京地判平成21年4月24日)
⑥
水族館の中間管理職者らのセクハラ言動(自身の不貞の話、性生活の話、「結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで。」「もうお局さんやで。怖がられているんちゃうん。」との発言等)は、職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切なものであること、会社ではセクハラ防止のための種々の取組みを行っていたこと、管理職としてその防止のために部下職員を指導すべき立場にあったこと等を考慮すると、セクハラ行為等を理由としてなされた懲戒処分(出勤停止)は懲戒権を濫用したものとはいえず、有効であるとした。懲戒処分を受けたことを理由とする降格も、人事権を濫用したものとはいえず、有効なものというべきであるとした。
(最高裁平成27年2月26日)