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児童相談所による一時保護

厚生労働省の「児童相談所における一時保護の手続等の在り方に関する検討会」は、令和3年4月22日に、その検討結果を発表しています。
その中では、児童相談所による一時保護開始の判断について裁判所が審査する法改正が提言されています。現行法においては、親権者等の意に反して2か月を超えて一時保護を行う場合には家庭裁判所の承認が必要となりますが、一時保護を開始する際には裁判所の審査は入らないという仕組みになっています。

児童相談所は、虐待通告を受けたときには子どもの安全の確認を行うための措置を講じ、必要があるときには子どもの一時保護を行うこととなります。
当然のことながら、児童相談所は子どもの生命・安全を守ることを最重要の目的としています。これに対して、一時保護には、親から養育を受ける子どもの利益や行動の自由を制限し、保護者の権利の行使等の制限を伴うものであるという側面もあります。
したがって、情報が十分にない状況において、児童相談所の一時保護の判断は難しいものだと思われます。

実態としては、子どもの生命・安全が失われたときの社会からの批判に対するおそれ、一時保護を行ったことに対する保護者からの反発へのおそれ等が判断に影響しているのではないかとも推測できます。
なお、厚生労働省のガイドラインでは、特に児童虐待対応においては、保護者や子どもの同意がなくとも、一時保護を躊躇なく行うべきであるとしています。

一時保護を開始するか否かは当然のことながら担当者の主観的な判断に引きずられるものであってはならず、客観的かつ合理的判断に基づくものでなければなりません。この点、厚生労働省のガイドラインでは、客観性・合理性を維持するために、客観的尺度(アセスメントシート等)に照らし合わせて一時保護の要否判断等を行うことが奨励されています。

前述した通り、現行法においては、一時保護を開始する際に裁判所の審査は入りません。
しかしながら、一時保護は重大な利益・権利の制限を伴うものであるから、裁判所の審査がないことは手続保障の観点から問題があるように思うところです。
また、一時保護の要否の判断は難しいものでしょうが、裁判所の判断例が積み重なり、それらが児童相談所にフィードバックされることで、児童相談所の一時保護の運用に指針が与えられるのではないでしょうか。
さらに、近年、クレーム等の増加により公務員のメンタルヘルスの悪化が懸念されている状況ですが、一時保護の最終的な判断は裁判所が行うということになり、保護者に裁判所での主張の機会が与えられるのであれば、児童相談所に対する強度のクレーム等も減り、職員の精神的負担も減るのではないかと想像できるところです。
以上のことから、検討会と同じく、一時保護開始に裁判所が関与する法改正は良いことではないかと思う次第です。

 


【関連条文】
児童福祉法33条
1 児童相談所長は、必要があると認めるときは、第26条第1項の措置を採るに至るまで、児童の安全を迅速に確保し適切な保護を図るため、又は児童の心身の状況、その置かれている環境その他の状況を把握するため、児童の一時保護を行い、又は適当な者に委託して、当該一時保護を行わせることができる。
2 (略)
3 前二項の規定による一時保護の期間は、当該一時保護を開始した日から二月を超えてはならない。
4 前項の規定にかかわらず、児童相談所長又は都道府県知事は、必要があると認めるときは、引き続き第1項又は第2項の規定による一時保護を行うことができる。
5 前項の規定により引き続き一時保護を行うことが当該児童の親権を行う者又は未成年後見人の意に反する場合においては、児童相談所長又は都道府県知事が引き続き一時保護を行おうとするとき、及び引き続き一時保護を行つた後二月を超えて引き続き一時保護を行おうとするときごとに、児童相談所長又は都道府県知事は、家庭裁判所の承認を得なければならない。(略)
6~12 (略)

(山崎)

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