動物虐待事案の刑事告発
はじめに
動物は被害を申告できません。
そのため、動物虐待を認知した人が証拠を取得し、刑事告発することが捜査の端緒として重要となります。
犯罪となる行為
愛護動物をみだりに殺し、または傷つけた者は5年以下の懲役または500万円以下の罰金に処せられます(動物愛護法44条1項)。*1
愛護動物を虐待、遺棄した者は1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられます(動物愛護法44条2項、3項)。*2
虐待行為等が法人の役員や従業員によって法人の行為として行われた場合には、虐待行為等を行った本人だけでなく、法人も処罰の対象となります(動物愛護法48条)。
証拠
警察に事件化してもらうためには証拠が必要となります。
したがって、動物虐待が行われているときにはその状況を撮影しておくことが重要です。
暴力を振るうなどの積極的虐待については、動画自体から虐待行為及びその加害者がわかるように撮影することが望ましいです。
動物愛護センター等
動物愛護センター等が動物虐待を認知したときには警察への告発等を行うことが要請されています(動物虐待対応ガイドライン70頁)。*3
そのため、動物愛護センター等に証拠を渡し、告発するよう働き掛けることが考えられます。ただ、動物愛護センター等が刑事告発をしてくれたときでも、告発後に適切な対応をしてくれるかはわからないため、別途刑事告発をしておくべきではないかと思います。
告発状提出
獲得した証拠から認定できる事実を告発事実として構成することになります。
告発状の適切な提出先は、動物虐待が行われた地を管轄する警察署の生活安全課です。
警察官は告発状を受理しなければならないことになっています(犯罪捜査規範63条)。*4
捜査
虐待された動物が押収(保護)され、法獣医学を専門とする獣医師による精査が行われることが望ましいといえます。ただ、一般に、虐待から時間が経ってしまうと、虐待と死傷の因果関係の立証は困難になるといえるでしょう。
加害者が躾のために有形力を行使したと弁解することがあります。そのような弁解を排斥するために、獣医師に証拠動画を見てもらい意見をもらうことが考えられます。
検察官による処分
検察官は、捜査が終了したときには通常、起訴(公判請求)、略式起訴、不起訴のいずれかの処分をすることになります。
検察官が起訴の障害となると考えている要因を把握し、解決策を一緒に考えたいものです。
検察審査会
検察官が不起訴処分をしたとき、告発人は検察審査会に不服を申し立てることができます。*5
公訴時効期間を過ぎたら起訴はできなくなります。動物虐待罪の公訴時効期間が短いことに注意が必要です。
*1
動物愛護法44条1項、2項の対象である愛護動物は、すべての動物をいうのではなく、牛、馬、豚、羊、やぎ、犬、猫、うさぎ、鶏、鳩、あひるのほか、人が飼育している哺乳類、鳥類、爬虫類に属する動物のことをいうとされています(動物愛護法44条4項)。
*2
動物愛護法は虐待に当たるものとして、①その身体に外傷が生ずるおそれのある暴行を加え、又はそのおそれのある行為をさせること、②餌や水をやらないこと、③酷使すること、④その健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束することにより衰弱させること、⑤飼養密度が著しく適正を欠いた状態で愛護動物を飼養し、又は保管することにより衰弱させること、⑥自己の飼養し、又は保管している愛護動物が疾病にかかり、又は負傷しているにも関わらず適切な保護を行わないこと、⑦排せつ物の堆積した施設又は他の愛護動物の死体が放置された施設で飼養又は保管すること、⑧その他の虐待を行った場合(ex恐怖を与える行為等)を挙げています。
*3
環境省は、令和4年3月29日に、動物虐待等に関する対応ガイドラインを発表しています。
同ガイドラインは、虐待を受けるおそれがある事態(動物愛護法25条)と動物虐待等事案(動物愛護法44条)への対応について、主に、地方自治体の動物愛護担当職員を対象として策定されたものです。
*4
犯罪捜査規範とは、警察官が捜査活動の際に守るべき心構えや捜査方法、手続き等を定めた公安委員会規則です。
*5
告訴・告発した人は、検察官による不起訴処分に対して、検察審査会という機関に不服の審査申立てをすることができます。
検察審査会に申立てがなされると、くじで選ばれた11人の一般市民が、検察官の不起訴処分が適切であったか審査します。
(山崎)