東京都カスハラ防止条例の成立
東京都カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」といいます。)防止条例が令和6年10月4日に成立しました。
カスハラ防止条例は令和7年4月1日から施行されることになります。
近年、カスハラによる被害が注目されてきているように思えます。
顧客が店員に土下座を強要し逮捕されたといったニュースを見た方も多いのではないでしょうか。
一部顧客によるカスハラにより、就業者は多大な精神的ダメージを受けることになります。事業者がカスハラが多い業界への新規参入をためらったり、カスハラが多発することにより事業継続が困難になるということも存在するものと思われます。
カスハラによる損害を防ぐため、厚生労働省は、令和4年2月25日に、カスタマーハラスメント対策企業マニュアルを発表しているところです。
ただ、カスタマーハラスメント対策企業マニュアルは、あくまで行政が作成したマニュアルにすぎませんので法的な拘束力はありません。
それに対して、今回の東京都カスハラ防止条例は法的な拘束力があるものです。
カスハラ防止条例において、カスハラとは、顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するものをいうと定義されています(2条5号)。*1
そして、「何人も、あらゆる場において、カスタマーハラスメントを行ってはならない。」として、カスハラを行うことを禁止しています(4条)。*2
ただ、カスハラ防止条例において、カスハラを行った者に対する罰則の規定はありません。
したがって、カスハラ行為が暴行罪、脅迫罪、強要罪、侮辱罪、業務妨害罪、不退去罪等の刑罰規定に該当すれば刑罰を科されうることになりますが、カスハラ防止条例自体による処罰は存在しないということになります。
カスハラは従業員に重大な精神的ダメージを与えるものですので、会社はカスハラに毅然と対応し、カスハラから従業員を守ることが社会的に要請されているといえるのでしょう。
カスハラ防止条例も、「事業者は、カスタマーハラスメントを受けた就業者の安全を確保するとともに、行為を行った顧客等に対し、中止の申入れその他の必要で適切な措置を講ずるよう努める。」としています(9条2項)。
また、東京都がカスタマーハラスメント防止指針(ガイドライン)を定めたときには、当該指針に基づき、手引(マニュアル)の作成などの必要な措置を講ずるよう努めなければならないとされました(14条1項)。*3
報道によればカスハラを禁止する条例は全国初とのことですが、カスハラに苦しむ人がいるのは当然東京だけではありません。
東京都以外の自治体でも今後同様の条例が制定されることが予想され、その際には東京都カスハラ防止条例が参考とされるのではないかと想像されるところです。
*1
著しい迷惑行為とは、暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為をいうとされています(2条4号)。
*2
クレームの中には、例えば障害者が合理的配慮を求めるといった正当なものもあります。
そのような正当なクレームがカスハラと扱われることを防ぐため、「顧客等の権利を不当に侵害しないように留意する。」として、顧客の権利についても配慮を行っています(5条)。
*3
カスタマーハラスメント防止指針(ガイドライン)においては、カスハラの内容、顧客等、就業者及び事業者の責務、都の施策、事業者の取組などを規定するとしています(11条2項)。