離婚と年金分割
皆さんは、「年金分割」という制度をご存知ですか?
あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、実は今から約10年前、平成16年6月に成立した「国民年金法の一部を改正する法律」で創設された制度で、主に女性の年金に大きく影響します。
例えば、夫Xがサラリーマン、妻Yが専業主婦という場合、夫Xが会社に保険料を支払って、将来は夫Xがその支払った額に対応した年金を受け取ります。もちろん支払った保険料が高ければ高いほど、将来受け取る年金額も高くなります。
さて、ここで問題が生じるのですが、妻Yが一生懸命家事をして家庭を支えていても、実際に保険料を会社に支払っているのは夫Xなので、専業主婦の期間は、妻Yには保険料を支払ったという「記録」がないことになってしまいます。将来受け取ることができる年金額は支払った保険料に応じて決まりますので、専業主婦の間、保険料を支払っていない妻Yが受け取ることのできる年金額はとても低くなってしまいます。もしも夫Xと離婚するということになった場合、妻Yは当面の生活だけではなく、老後にも不安を抱えることとなってしまいます。
そこで「年金分割」という制度の出番です。
離婚した場合、夫Xが婚姻中に支払っていた保険料の「記録」を妻Yに一部分割するということができます。そうすることで、妻Yが支払った保険料の「記録」が高くなり、それに応じて将来受け取ることができる年金額も高くなるという仕組みです。
このように老後の備えとして大切な「年金分割」ですが、自動的にされるわけではありません。平成20年4月1日以降で専業主婦だった期間など限定的な場合には、一方的に1人で年金事務所に申請することができる場合もありますが、基本的には話し合いをして2人で年金事務所に行って手続を取るか、そうでなければ公正証書や調停調書・審判等が必要となります。それでも、老後の大切な備えになりますので、離婚の際には合わせて「年金分割」の手続を取られることをお勧めします。離婚というとどうしても親権や養育費、財産分与といったところに意識が行ってしまいますが、自分の将来のための「年金分割」もとても大切な制度です。
最後に一つ注意です。この「年金分割」は離婚から2年以内に手続を取らなければなりません。もし話し合いがまとまらず年金事務所で手続が取れないようであれば、離婚から2年以内に調停を申し立てた方が良いでしょう(2年以内に調停を申し立てて、その後に調停成立や審判が出された場合は、その時点で離婚から2年過ぎていたとしても、調停成立・審判確定から1か月以内であれば年金分割手続ができます)。
今回は、最初のコラムということで「年金分割」という法律制度のご紹介をいたしました。今後もその他の法律制度、また時には当事務所所員の日常なども不定期にご紹介してまいりますので、どうかよろしくお願いいたします。
(弁護士 押見和彦)