セクハラに関して我慢は不要
セクシュアルハラスメント,いわゆる「セクハラ」は,「性的嫌がらせ」と一般に言われることが多く,社会でも広く使われるようになりました。
今回のコラムのテーマは,この「セクハラ」についてです。
まず,皆さんに質問があります。
Xさん(女性)とYさん(男性)に対する次の7つの例は,セクハラでしょうか?
①A男がXさんの更衣室を覗き見した。
②Xさんが具合悪そうにしていたところ,B男が「今日は生理か?」と言った。
③Yさんを何度もデートに誘った。
④D男が冗談で下ネタをXさんに言ってきた。
⑤Yさんが落ち込んでいたところ,E女が「男のくせに根性がない」と言った。
⑥F男がじーっとXさんのことを見つめていた。
⑦G女とH男が,XさんやYさんの身体や容姿を話題にして話していた。
はい,考えていただいてありがとうございました。
①のA男さんの行為は,もはや犯罪ですね
④~⑦あたりはどうでしょうか?実際に,皆さんの日常生活の中で起こったりはしていないでしょうか?
「セクハラ」については,「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(男女雇用機会均等法)という法律に関係する条文があります。
男女雇用機会均等法の第11条では,「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け,又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう」にしなければならないと規定されています。
つまり,職場において,労働者の意に反する性的な言動が行われ,それを拒否するなどの対応により解雇,降格,減給などの不利益を受けることはもちろん許されませんし,解雇等の不利益がないとしても性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため,労働者の能力の発揮に悪影響が生じた場合もやはり「セクハラ」として許されないことになります。
最初に考えていただいた①~⑦は,人間関係や状況にもよりますが,全て「セクハラ」に当たる可能性がある行為です。
さて,このコラムを読んでいる皆さんは,多少なりとも「セクハラ」に関心を持っていただいているのではないかと思うのですが,「セクハラ」の深刻な問題の一つが,加害者側に嫌がらせの意識がない場合がとても多いということです。
多くの場合,加害者側は「セクハラ」をしている認識もなく,自分の行為が「セクハラ」に当たるかもしれないという危機意識も持っていません。むしろ,好意とかスキンシップと勘違いしてしまっている場合もあります。
また,「セクハラ」については,次第に内容がエスカレートしていくという問題も深刻です。法律相談でセクハラ被害に関する相談を何件か受けたことがありますが,「最初は,このくらいは我慢しなきゃいけないのかと思っていました」とお話しする方が何人もいらっしゃいました。
「セクハラ」に関しては,我慢は禁物です。
加害者側が勘違いしてしまっている場合もあると書きましたが,嫌がらせの意識がないまま自分の言動が受け入れられたと思って,どんどん言動がエスカレートしていく危険があります。
中には妄想恋愛型と呼ばれ,(1)打合せ→(2)食事→(3)プレゼント…と段階的に行われる「セクハラ」もあります。このようなタイプの場合,どの段階で拒絶すれば良いのか分からなくなってしまったり,「自分も気を持たせるような態度を取ったのではないか…」と反対に後ろめたさを感じる人もいるかもしれませんが,そもそも「セクハラ」自体が許されない行為です。
できるだけ早い段階で,それ以上エスカレートする前にストップして,労働環境が改善する方が良いことは間違いありません。
「恥ずかしい,相談しにくい…」,「誰かに相談したことが知られるのではないか不安…」ということで,一人で抱え込んでしまう方もいらっしゃいますが,それ自体とても大きなストレスですし,今よりもさらに状況が悪化する危険もあります。
辛くて苦しんでいることを相談して助けを求めることは,何も恥ずかしいことではありません。守秘義務のある弁護士はもちろんですが,然るべき相談窓口であれば秘密ももちろん守られます。
被害者の方におかれましては,「セクハラ」がこれ以上エスカレートする前に,またストレスに耐えかねて心身を壊してしまう前に,どうか一人で抱え込まずに悩みをご相談いただければ幸いです
(弁護士 押見和彦)