裁判員裁判を担当して感じたこと
平成21年5月に裁判員法(通称)が施行されてから早5年―――
期間の設定や地域にもよりますが,裁判員に選ばれる確率は,年間で有権者の約0.01%位らしいです。もしかしたら皆さんの周りでも,既に裁判員をご経験された方もお一人くらいはいるかもしれません。
そんな裁判員裁判を,去年初めて担当しました。
事前に裁判所で何度も打ち合わせを重ねましたが,蓋を開けてみて感じたことは,やはり裁判員の方への説明は難しいということです。施行当初から言われていたことですが,専門的で難しい法律概念を日常的な言葉に言い換えて説明すると,正確性を損なう可能性があります。とはいえ,個々の弁護士や検察官が,自分なりの表現で説明してしまうと裁判員が混乱してしまうおそれもあります。そこで,専門的な法律概念の表現方法については,事前に検察官と話をしておく必要がありました。
また,一連の裁判を通じて印象深かったのは,裁判員の方の目でした。弁護士の研修では,「裁判員の人たちに語りかけるときは,何も見ずに目を見て話すように!」と言われることが多いのですが,これは少しでも相手の心に響くようにという理由です。確かに,紙を見ながら棒読みするよりは,同じ内容でも訴えかける力は変わるとは思うのですが,実際,何人もの真剣な眼差しに晒されると,覚えていたはずのセリフも飛びそうになってしまいます。テレビの前で,関わりのない立場で重罰を期待する視聴者とは違い,裁判員は評決権を持って現実に被告人を裁くということに向き合わなければなりません。そのことに対する責任感が,個々の裁判員の真剣な眼差しに表れている,そんな感じがしました。
(弁護士 阿部大介)